本研究では、ポリエチレングリコール(PEG)/デキストラン水性二相系の一方の相に完全に分配されるナノスフェアに酵素を固定化して、水性二相系において、抽出生物反応を行うプロセスの構築を目指した。本プロセスは基本的にはミキサ-セトラ-型の反応プロセスであり、攪拌槽で酵素反応を行った後に、二相にわけ、ナノスフェア固定化酵素を含む上相(PEG相)はリサイクルする。一方、プロダクトは下相(デキストラン相)から吸着あるいは、膜分離により回収し、下相そのものはリサイクルする。ナノスフェアとしては、調製法が確立されているシリカ、チタニア、ジルコニアを使用した。これらのナノスフェアは、いずれも単分散性に優れた5〜20nm程度の粒子径をもち、工業的にも大量生産されており安価に入手できるものである。また、いずれも、PEG/デキストラン水性二相系において、完全に上相(PEG相)に分配されるものである。また、酵素としては、高分子基質デンプンを分解するα-アミラーゼを使用した。本研究では、(1)これらのナノスフェアに酵素をその等電点より僅かに高いpHで吸着させた後に、グルタルアルデヒドで架橋することで、高活性を示すナノスフェア固定化酵素を調製できる、(2)水性二相系においても固定化酵素は、水中と同程度の反応速度を示し、物質移動抵抗は小さい、(3)酵素反応後に反応生成物を下層に、また酵素固定化ナノスフェアを上層に回収でき、繰り返し抽出酵素反応を行うことができる、ことなどを明かにした。こうした結果から、ナノスフェア固定化酵素と水性二相分配法を組み合わせた抽出反応プロセスの有効性を示すことができたと言える。今後、ナノスフェアや水性二相系の最適化により、より優れた抽出反応プロセスの構築が期待される。
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