水素分離膜としては工業的にはパラジウム系金属膜が使用されているが、パラジウム系金属と他の金属の水素の透過速度を比較すると、チタン、バナジウム、ジルコニアなどの金属はパラジウムよりも大きな水素透過速度を与える。そこで本研究では、チタンおよびジルコニア金属を多孔質アルミナ表面に薄膜担持した複合膜を作成し、水素透過能を検討した。薄膜の作成法には種々の方法があるが、本研究では均一な膜が生成すると考えられるCVD法を取り上げ、ピンホールのない金属の薄膜を多孔質アルミナ表面に担持することを試みた。 CVDを行うためには、蒸気圧が高く分解しやすい化合物を前駆体に用いる必要がある。本研究では、真空中で昇化し、500℃付近で分解すると考えられる(C_5H_5)_2TiCl_2、(C_5H_5)_2ZrCl_2錯体を用いて薄膜の作成を行った。SEMおよびEPMA測定より、(C_5H_5)_2TiCl_2を用いた場合には多孔質アルミナ支持体温度を350〜550℃と変化させても支持体の表面が完全にTiにより覆われないことが示された。これに対して、(C_5H_5)_2ZrCl_2錯体を用いて500℃で熱分解CVDを行うと表面がZrにより覆われ、膜厚約2.5μmの薄膜が生成することがわかった。この複合膜を用いて水素透過試験を行ったところ、測定温度の上昇とともに水素透過能が減少した。多孔質アルミナ支持体の表面が完全にZrで覆われているとすると水素透過速度は圧力差の0.5次に比例するはずであるが、この膜での水素透過速度は圧力差の1次に比例して増大した。水素-窒素の混合ガスを用いて透過試験を行ったところ、水素と窒素の透過速度の比は3.749となり、この膜での水素透過はクヌーセン拡散に起因していることが示された。
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