研究概要 |
不均一な培養系でも使用可能な生物細胞濃度測定法を開発した。生物細胞の増殖に伴う培地成分の変化を総合的にとらえる指標として、培地成分の総モル濃度を反映する培養液の浸透圧に注目し、その変化を追跡することにより培養液中の細胞濃度を推定した。炭素源として2糖類のSucroseを用いたMurashige-Skoog培地でワサビ、タバコ、ニチニチソウおよびイネの細胞培養を行った結果、植物細胞はインベルターゼによってSucroseをGlucoseとFructoseに分解して利用するため、培地成分の総モル濃度が増加し培養液の浸透圧が増加した。その結果、細胞の増殖量(ΔX)と培養液の浸透圧の変化量(ΔP)との間には直接関係は認められなかった。炭素源としてSucroseの代わりにGlucoseを用いて培養した結果、浸透圧の増加は認められず、いずれの植物細胞でも細胞の増殖量と培養液の浸透圧の減少量との間に直線関係(ΔX=kΔP,k;比例定数)が認められ、培養液の浸透圧測定に基づき細胞濃度を推定することが可能となった。 2種類の酵母(Saccharomyces cerevisiae,Candida brassicae)を種々の培養条件下で培養した結果、エタノール生産量の大小にかかわらずΔX=k(ΔPc-ΔPp)[ΔPc;培養液の浸透圧の変化量,ΔPp;生産物による浸透圧の変化量]の関係が認められた。両菌株において栄養源として安価な固形成分を含む培地を用いた場合もΔXと(ΔPc-ΔPp)の間に直線関係が認められ、培養液の浸透圧測定に基づき細胞濃度の推定が可能であった。固形成分含有培地において、プロトプラスト化反応を利用し、菌体と固形成分を分離し、菌体量を正確に測定する方法を開発した。微生物農薬Bialaphosの工業生産に用いられている放線菌(Streptomyces hygroscopicus)の固形成分含有培地における増殖経過を培養液の浸透圧測定に基づき推定することが可能であった。本法は、様々な細胞および培養系において有効な細胞濃度測定法である。現在、自動的な測定が可能な浸透圧計の開発について検討中である。
|