本研究では、酸化物超伝導体のなかでも最も電気的磁気的特性に異方性が大きいビスマス系2212相を取り上げ、酸素量と磁界下における特性の関係を明らかにすることを目的とした。本研究では、様々な酸素分圧下で石英管中にフローティングゾーン法で作製した単結晶試料を封入しアニールを施すという、精密な酸素量の制御法を確立し、キャリアのアンダード-ピング状態からオーバード-ピング状態まで幅広く電子状態を変化させることに成功した。結晶のc軸に平行に印加した磁界下での磁化特性の評価の結果、主に以下の3点が明らかにできた。それらは、酸素量の減少に伴い、不可逆磁界が著しく低下すること、磁化の第2ピークは酸素量の減少に伴い低磁界にシフトしアンダード-ピング状態では消失すること、同一試料では磁化の第2ピークは温度によらず同じ磁界で出現することである。同様な試料について磁界下でのc軸に沿った方向の電気抵抗率測定を行ない、酸素量の減少とともに、常伝導状態での抵抗率が著しく上昇し、ブロードニングが大きくなりゼロ抵抗を示す温度が極端に低温側にシフトすることを見いだした。さらに、外部磁界を重畳した交流帯磁率の温度依存性について特に第3高調波成分を中心に評価したところ、オーバード-ピング状態の試料について、不可逆曲線より低温側で異常な散逸成分が観測され、これが低温での第2ピーク磁界以下の外部磁界下で出現することが明かになった。以上の結果より、異方性が酸素量の増加に伴い著しく小さくなること、磁化の第2ピークの起源が、低温側では温度に依存しない磁界で決定される磁束線の次元クロスオーバーであること、次元クロスオーバーは高温側では熱の影響が大きくなるため温度に依存し、低磁界側にシフトすることなどを明らかにできた。これらより異方性が大きい代表的な物質であるビスマス系酸化物超伝導体の磁気相図を確立するに至った。
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