光合成はシラコイド膜中の光化学系Iと光化学系IIを連結させたタンデム方式で反応に必要な酸化還元力を生み出している。この2つ系の反応はキノンを電子プールとした電子伝達系を介して連携している。そこで、人工的にタンデム方式の光反応を構築すべく、キノンの代わりにアゾベンゼンを用いた化学的二光子励起の研究を検討した。 まず、光化学系IIの構成を行った。水溶性ポルフィリン錯体を光増感剤、双性イオン型ビオローゲンをメディエーター、トリエタノールアミンを犠牲的電子供与体として、これらを水相に溶解させ、2分子膜に担持した両親媒性アゾ化合物の光還元反応を行った。ポルフィリン光励起による定常光照射(>520nm)を行うと、アゾベンゼンの吸収に対応する300〜400nmの吸収が減少した。これに対して、ビオローゲンを添加しない系では上記の吸収の減少は観測されなかった。これらの結果より、双性ビオローゲンがメディエーターとして働き、膜界面を介しての電子移動反応が起こり、2分子膜に担持されたアゾ化合物がヒドラゾ体に変化したと考えられる。光増感剤として、ルテニウム錯体を用いた場合においても同様な結果が得られた。次に、NMRスペクトルによってアゾベンゼンからヒドラゾベンゼンへの光還元反応を確かめた。化学的還元によって得られたヒドラゾベンゼンの芳香環プロトンと上記の様に光還元によって得られた芳香環プロトンが一致した。従って、メディエーターを用いることで、2分子膜に担持したアゾベンゼンに2プロトンと2電子を貯めることが可能な電子プールを構成することができた。 また、光化学系Iの構成として、ヒドラゾベンゼンによるルテニウム錯体の光酸化反応を行った。ヒドラゾベンゼンによるルテニウムの蛍光消光が観測され、光酸化反応が確かめられた。 以上の結果により、アゾベンゼンを電子プールとしたタンデム式光触媒の可能性が示された。
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