研究概要 |
鉄酸化細菌は菌体を構成するすべての炭素を大気中の二酸化炭素から同化している独立栄養細菌である。本研究の代表者はこの細菌の固体への付着と酸化挙動との関係、pH値1以下における育成、集積培養における共生系の解明およびその工学的利用についての検討を進めてきた。一方、近年、二酸化炭素などのグリーンハウスガスの大気中の増加が叫ばれるようになり、排ガスにおける二酸化炭素の吸収源を如何に多様化させるかが問題になっている。そこで、本研究では独立栄養細菌である鉄酸化細菌を、より高濃度のCO_2雰囲気において培養、育成し、細菌による炭素同化速度を評価することを目的とした。 本研究において使用した菌は旧松尾鉱山排水処理場酸化槽の処理水中から採取したものを、長期間連続集積培養を行ったものを用いた。この菌を9K培地とエネルギー源を加え、酸素、二酸化炭素を所定の溶存濃度に設定しながら恒温にて培養した。その間、菌体数を生物顕微鏡にて測定し、菌体数の経時変化を得た。また、第一鉄イオン濃度を過マンガン酸カリウムの滴定によって測り、Fe^<2+>の経時変化を得るとともに、pH値を電極により測定した。 本研究では溶存酸素が不足しないよう、全実験において吹き込みガスの25%を酸素とした。そして、吹き込みガスにおける二酸化炭素濃度を0.03%,0.1%,0.3%,1%,3%,6%,9%および15%とし、その他を窒素とした。なお、溶存ガスや基質などが反応容器中において一様によるよう500rpmで攪拌を行った。また、CO_2濃度の設定順序はランダムに行った。得られた知見を要約して以下に示す。 (1)本実験範囲において最大酸化速度およびその際の1cell当りの酸化速度は高濃度二酸化炭素雰囲気においてもCO_2を0.03%とした場合とほぼ同じであり、細菌は高濃度二酸化炭素雰囲気でも活性を維持できる。 (2)二酸化炭素の影響は細菌の増殖における誘導期の時間に顕著に現れ、CO_2濃度が9%までは濃度を大きくするにつれて誘導期が短くなり、その後は長くなる。その傾向は実験を行った順序に依存しない。 (3)誘導期の時間は9%の場合0.03%の約3分の1になった。また、誘導期から対数増殖期に移行する期間の増殖速度は9%の場合、0.03%の5培以上になった。
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