研究概要 |
1994年は夏場の降水量が極めて少なく,陸稲も農家圃場においては記録的な干ばつ害を被った年であった.本研究はこうした気象条件の中で,茨城県農業総合センター生物工学研究所の協力を得て,水戸市上国井在の試験圃場における圃場試験を中心に行なった.この圃場試験においては,北関東の主要栽培品種のほか,耐早性が比較的強いとされる外国品種IRAT109,および,IRAT109と国内品種を交配して新たに育成された系統,さらには,耐早性が弱いと考えられる水田・畑両用品種や水稲品種を供試し,干ばつ条件下での籾の稔実の程度と根系形質を調査した.稔実程度は,早生品種が土壌水分が著しく低下する以前に開花することで稔実への障害を回避していたが,中生品種どうしで比較した場合には,IRAT109とそれを母体とする系統が高い稔実率を維持していたのに対して,日本の陸稲品種では稔実率が著しく低下し,水稲品種および水田・畑両用品種ではさらに稔実が阻害されていた.一方,根系の分布を塹壕法によって深さ80cmまで調べたところ,IRAT109とそれを母体とする系統では深さ60cmを越える深い土層でも,土壌断面100cm^2当り10本程度の根(または分枝根)が認められたのにたいして,他の品種は,土壌表層部では上記3品種と同程度もしくは多くの根量が認められたが,深層部での根量は著しく小さかった.特に水稲品種や水田・畑両用品種では60cmを越えるような深層ではほとんど根がみられなかった.こうした結果から,とくに土壌下層に多くの根を展開することは,陸稲の乾燥条件下での安定多収に極めて重要な形質と考えられた.これらの成果については日本育種学会および日本作物学会に発表準備中である.深根性の違いがどのような形質によってもたらされていたかについては,同じ圃場,および,東京大学の圃場やハウス内で採取した材料を用いて引き続き解析中である.
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