研究概要 |
接ぎ木樹における台木の地上部分(台木植物の茎)は独自の陽芽や葉を有さないが,単に主幹下位の通導部というだけでなく,台木が台木植物本来の特性を主張するための環境センサー的役割を担うのではないか? 本研究ではこの仮説を検証するため,台木地上部,台木根部と穂木地上部を独立させた様々な環境下に置き,それぞれの生育中の相互作用,あるいは生育ジレンマについての検討を行った. 喬性台木,矮性台木など樹勢制御に関わる台木に接いだモモ,リンゴの接木苗をルートボックス(地下部観察用育成槽)で栽培し,人工気象室内で根,台木地上部および穂木に様々な温度環境を与え,接ぎ木樹体の各部位の生長,休眠導入・打破について調査した. モモ,リンゴともに春〜秋の根の生育パターンは,台木植物が本来有する生育周期を強く反映した.地下部の挙動は地上部の生育にも反映され,矮性台木を用いた場合初夏から秋にかけての地下部の生長が少なく,通常の共台ならば数次にわたって起こる根の生長の活性化に呼応する地上部の生育活性化(遅延び)が見られなかった.秋の休眠導入は矮性台木植物で早く,また休眠覚醒も矮性台木植物の方が早いが,モモでは地上部の挙動に対する台木の影響を受けたもののリンゴに比べればその反応は小さかった.モモとその台木であるPrunus植物は,地上部で休眠打破のための低温を感受し,リンゴでは台木が受けた低温が樹の休眠覚醒を支配した.休眠打破に必要な低温被爆時間の短い矮性台木に接いだ樹では,少ない低温でも正常な生育を開始した. 以上のことより,穂木と台木が異なる植物で構成されている接ぎ木樹では,台木の挙動が樹全体の生育に強く反映され,また穂木と台木間で環境応答シグナルが交換されていることが推察された.
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