ジャガイモそうか病菌のアクチノファージについて、いくつかの特徴的な性質が見出された。通常宿主菌にファージを接種して溶菌の有無を観察する際には宿主菌の胞子(または菌体)懸濁液にファージ懸濁液を加えるが、このような方法を用いず宿主菌の寒天培養上に直接ファージ懸濁液をスポットすることによってプラークを形成する宿主範囲が広くなることがわかった。前者の方法ではファージが宿主菌に十分に吸着し得ない場合があると考えられた。 ほとんどのアクチノファージのDNA制限酵素分解パターンは十分に単プラーク分離を行なったものでも観察されるバンドが多く、無処理DNAのサイズに一致しなかった(宿主が同じ場合にはパターンは同一となり、宿主を代えるとパターンも代わる)。同じファージが同じ宿主菌に感染して増殖した場合でもその子孫にDNA構造の点で多型が生じている可能性があると思われた。この点を確認するため、そうか病菌株KY9113で増殖させたファージ株φNI-1を別のそうか病菌株Ch1で増殖させ、単プラーク分離を行なった。それぞれの単プラークファージ株DNAの制限酵素分解パターンには多型が認められた。この多型が宿主のDNA制限・修飾系の変異によるものか、ファージDNAに組換えが起こったためであるのかは不明であり、現在検討中である。 エステラーゼ遺伝子の検出の目的で、感度の向上を計るため新たにPCRによる増幅産物の検出を試みた。Raymerら(1990)によるそうか病菌エステラーゼ遺伝子の塩基配列を参考としてPCR用プライマーを設計し、各そうか病菌株について検討したところ明確な1本のバンドとして増幅が認められた。当研究室の保存菌株のうち、らせん状胞子鎖を持つ菌株ではすべて同サイズ(約290bp)の増幅産物が認められたが、直〜波状胞子鎖の菌株では360bp、270bpなどサイズは様々であった。らせん状胞子鎖菌株由来の増幅産物をクローニングし、塩基配列を解読したところ菌株間で同一であり、Raymerら(1990)のエステラーゼ遺伝子と60%の相同性を持っていることがわかった。エステラーゼ遺伝子そうか病菌の種類によって多型を示していることが示唆された。 今後もファージDNAの組換えの有無、そうか病菌エステラーゼ遺伝子の多型の詳細について検討する予定である。
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