研究概要 |
我が国のマメ科植物に発生するレンゲ萎縮ウイルス(Milkvetch dwarf virus,MDV)の環状一本鎖DNAゲノムの構造を解析した。これまでに作製したMDV-DNAクローン・ライブラリーについて塩基配列を解析した結果、MDVのゲノムは同一のサイズ(1kb)で配列の異なる最低5種類の環状DNA鎖から成り、ウイルスの持つ遺伝情報は各々別個のDNA上のコードされることが明らかとなった。また、各DNA鎖上には共通の配列をもつ領域があり、この部分には特異なヘアピン状構造が見いだされた。同様な配列は、MDVと同じく環状DNAをゲノムとする植物Geminiウイルスをはじめ、バクテリオ・ファージφX174、さらにはアデノウイルスの複製起点(ori)にも認められることから、このヘアピンの領域がMDV-DNAの複製開始点であると考えられる。配列が決定された5種のDNA上には全て単一の読み枠(ORF)が存在し、各々分子量12K、15K、17K、20K、及び32Kダルトンのタンパクがコードされていた。このうち32KタンパクについてはdNTP結合モチーフが認められる事からDNA複製に関与するものと考えられるが、他の4種のタンパクについては機能は不明である。現在、こうしたタンパクの読み枠の領域を発現ベクターへ挿入し、大腸菌体内で発現させたタンパクを用いて抗体を作製中である。一方、レンゲ萎縮ウイルスと粒子形態及びゲノム構造が類似した植物病原ウイルスがこれまでに世界各地で4種類報告されており(Subterranean clover stunt virus,オーストリア、Banana banchy top virus,オーストラリア及び台湾,Coconut foliar decay virus,オーストリラア、Faba bean necrotic yellows virus,アフリカ)、こうした各国の研究者と協議のうえ、MDVを含むこれら5種のウイルスからなる新たなウイルスグループの設立を要請する報告書を国際ウイルス分類委員会へ提出し、現在審議に付されている。
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