構造中に同形置換由来の負電荷を有しない層状ケイ酸塩粘土鉱物の表面酸性について、まずその特徴づけを行った。これらの鉱物の表面酸性強度は、交換性陽イオン種及び相対湿度(水分含量)に依存せず、一定であった。また、全ての条件下で3八面体型鉱物よりも2八面体型鉱物の方が強い表面酸性を示した。表面酸性点は鉱物全表面の70%以上を占め、また、結晶端面の破壊原子価(ブレンステッド酸点)をNaOHあるいはポリリン酸で閉塞しても、その表面酸点量は減少しなかった。以上の結果から、これら鉱物の表面酸性ルイス型であり、酸性点は結晶の平面部分(シロキサン表面)であると結論した。 このルイス酸性は、四面体層と八面体層が連結して2:1型あるいは1:1型鉱物を形成する際に生じる、構造の歪みに由来すると推論し、モデルクラスターを組んで、ab initio 分子軌道法計算を行った。プログラムはGaussian 92で、基底関数は6-31G*を用いた。正四面体シートと連結するために、正八面体シートは回転によってそのb値を拡大し、さらに、Al(Mg)-O結合が伸長している。また、この拡大、伸長は2八面体型(Al系)の方が、その程度が大きい。これらを再現したモデルに対する分子軌道法計算の結果、b値の拡大、及び結合伸長がモデルのLUMOを低下させることが示され、電子受容性(ルイス酸性)が増大することがわかった。さらに、Mg系よりもAl系の方がLUMOが低いことが示され、実験結果と一致した。したがって、同形置換由来の負電荷を有しない粘土鉱物の表面ルイス酸性の起源は、四面体層と八面体層が連結する際に生じる構造の歪みに由来する、八面体シートの電子受容性の増大に起因すると結論した。
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