研究概要 |
イネ科植物の鉄獲得物質のうち、2′-デオキシムギネ酸(DMA)は最初に生合成されるキ-物質である。本研究はDMAの生合成経路の解明と生合成酵素の単離を目的とし、以下の成果を得た。なお実験系をシンプルにするために、DMAだけを生合成する小麦(品種 農林61号)を実験材料とした。 1.まずは今まで推定された生合成経路について検討した。L-メチオニン(Met)とDMAの間の中間体と思われるMetの二量体と三量体(^<13>C標識)を化学合成し、取り込み実験を行った。その結果、両化合物ともDMAに取り込まれなかった。この結果は今まで推定された生合成経路の可能性を否定した。 2.上記の経路を明らかにするために、最初の前駆体であるMetがDMAへ変換されるとき、分子中の各原子の変化を調べることにした。^<13>C,^<15>N,^2H標識のMetを用いて調べた結果、Metの2位の^2HがDMAへ変換されるとき、3分子とも消失したが、他の原子はそのままDMAに取り込まれた。この結果はazetidine-2-carboxylic acidが中間体である可能性を示唆している。そこでこの結果にもとづいて、新たな生合成経路を提示した。 3.DMAの生合成がメチオニンサイクルと共役していることをつきとめた。 4.DMA生合成酵素を単離するために、鉄欠乏処理した小麦の根を用いて、粗酵素の調製を行った。〔1-^<13>C〕Metを基質とし、HPLCとMASSを組み合わせた検出方法で、DMA生合成酵素のアッセイを試みたが、活性が低く、酵素の単離に至らなかった。 5.DMA生合成酵素をコードする遺伝子を単離するために、鉄添加と無添加で処理した小麦の根を用いて、cDNAライブラリーを作製した。現在differential hybridizationを用いてスクリーニングを行っている。
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