当研究室で樹立したTSC細胞は、結節性硬化症患者由来の分裂異常を示す細胞である。TSC細胞が示す細胞分裂異常の関連遺伝子を、cDNAによる相補的なレスキューにより同定・単離することを試みた。 まず、哺乳類細胞における発現ベクターであるpMAM-neoを用い、W138細胞由来のmRNAから合成したcDNAをクローニングした。ただし、当研究室にはW138細胞由来のcDNAライブラリーを所有していたため、挿入DNAのサブクローニングのみを行った。 このようにして作製したcDNAライブラリーを、1)リン酸カルシウム法、2)リポフェクチン法の2通りの方法でTSC細胞へ導入した。リポフェクチン法は簡便かつ高効率であるが、線維芽細胞に対しては遺伝子導入の効率が極端に低い時があるためである。その後、G418耐性と細胞分裂速度による選択を行った。細胞分裂が早いクローニングを選択して、増殖時に細胞分裂異常を示す細胞が出現すかどうかを観察した。 その結果、1)すぐに細胞分裂異常を示した細胞、2)数回継代してから分裂異常を示した細胞の2通りに分類され、まったく分裂異常を示さない細胞を得ることはできなかった。 この理由としては、1)cDNAライブラリーの質、2)発現時期を制御することができない、3)変異が優性であった、4)導入遺伝子の不安定性、などの原因が考えられる。特にこの疾病が優性遺伝病であることから、gain of function型の変異であるために当研究で用いたスクリーニング法では単離することができなかったものと考えられる。したがって、TSC細胞よりcDNAライブラリーを作製して、正常線維芽細胞に導入して細胞分裂異常が起こるかを観察する必要がある。現在、この可能性について検討中である。
|