1.ヒト大腸癌由来培養細胞株Caco-2の無血清培養株であるCaco-2-SFの機能特性について検討した。Caco-2-SFは培養4日目にコンフル-エントに達し、10日目にはスクラーゼ活性が顕著に発現した。Gly-Glyと共輸送されるH^+の細胞内濃度を蛍光色素により測定することでペプチド輸送活性を測定したところCaco-2-SFはCaco-2と同様な活性を示した。細胞を透過性膜上に3日間培養した後経上皮電気抵抗(TEER)を測定したところ、300Ω-cm^2以上の高いTEER値を示した。しかし、細胞層をハンクス液でリンスした後TEERを測定したところその値は100Ω-cm^2以下にまで減少していた。このことからCaco-2-SFはタイトジャンクション(TJ)を形成しているが不安定であることが明らかとなった。一方、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加し1時間インキュベートする事によりTJが安定化された。そこでこのCaco-2-SFを用いたアッセイ系によりTJ安定化活性を持つ食品蛋白質を検索した。 2.様々な食品蛋白質あるいはその酵素分解物についてアッセイした結果β-カゼイン-トリプシン分解物(β-CN-T)に強いTEER上昇活性、即ちTJ安定化活性が見られた。そこで、β-CN-Tを逆相短カラムにより分画しアッセイした結果、50%アセトニトリルにより溶出された画分に強いTJ安定化活性が認められた。逆相HPLCによる分離なども試みたが活性ペプチドを単離する事は出来なかった。 3.ロ-ダミン・ファロイジンによりアクチンリング(AR)を蛍光染色した結果Caco-2-SFもCaco-2と同様なARを形成していることが示唆された。また、サイトカラシンDにより細胞を処理したところβ-CN-Tの活性が抑制された。以上より、β-CN-TによるTJの安定化機構に細胞骨格を介した経路も関与していることが示唆された。各種TJ関連蛋白質のmRNA量の変化や蛋白リン酸化程度の変化については本年度内に完了することは出来なかった。
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