平成6年度において、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)に対して顕著な抗MRSA活性を有するγ-リノレン酸を用いて、トランス化反応を行い、立体構造の異なる、より強力なトランス型γ-リノレン酸を合成し、それらの精製及び抗菌活性の評価を試みた。その結果、γ-リノレン酸メチルエステルをp-トルエンスルフィン酸と混合し、92℃で20分間の反応によって、シス-トランス混合型γ-リノレン酸を合成する事が可能となった。そして、この試料を100mキャピラリーカラムを装着したGC-MSによって詳細に分析した結果、試料中には6種類のトランス-シス混合型γ-リノレン酸が存在する事が観察された。そこで、硝酸銀TLC上に試料をスポットして展開したところ、4つのスポットに分類している事が確認された。次に、GC-MSで分析した結果、この4つのスポットはそれぞれ(1)オールトランスのγ-リノレン酸 (2)トランス2つ、シス1つを含むγ-リノレン酸が2種 (3)トランス1つ、シス2つのγ-リノレン酸が2種 (4)オールシスのγ-リノレン酸が合成されている事が認められた。そして、このスポットをTLCから削りだし、各混合比と濃度を計算した上で、抗MRSA活性試験を行った。その結果、最大の活性を示したものは、トランス1つ、シス2つを含むγ-リノレン酸であり、2番目としてオールシス型、3番目としてトランス2つ、シス1つ、そして最も活性が低いものはオールトランス型であった。従って、これら脂肪酸の抗菌活性の強弱は、それらの細胞膜への親和性の違いによって起こっているものと推察した。すなわち、オールトランス型のγ-リノレン酸はオールシス型やトランス1つ、シス2つのγ-リノレン酸と比較して、この脂肪酸は2重結合の部分が直鎖状になっているため、細胞膜に侵入、結合そして膜の流動性の変化等を引き起こす頻度が低いために抗菌活性が低い結果になったものと推察された。今後は、種々のクロマトグラム法を駆使して、この4つのタイプのγ-リノレン酸を完全に分離し、その詳細な化学構造解析及び抗菌活性の評価を行う予定である。
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