【目的】わが国の森林土壌の分類においては、その大部分を占める褐色森林土壌はおもに水分環境の相違をもとにB_A型からB_F型の6土壌型に細分されており、これらの土壌特性の相違を調べることは、気候変化が森林土壌に及ぼす影響を知る手がかりとして有効であると考えられる。本研究では、気候、植生、母材、が同一で微環境の異なる森林土壌系の特性を把握することにより、温暖化にともなって起こる可能性のある乾燥化に対して、土壌の変化を予測する手がかりを得ることを目的としている。 【結果・考察】供試土壌は斜面上部(B_B型)と下部土壌(B_D型)である。上部は乾燥の影響を受け易く、下部は湿潤であり、スギの生育は下部の方が上部よりも良好であった。土壌溶液・土壌平衡溶液中の硝酸イオンは斜面上部で少なく、斜面下部で多くなる傾向を示した。土壌平衡溶液に関しては、斜面上部ではAl^<3+>が多く、下部ではMn^<2+>が多くなっていた。斜面下部の水分供給量の多さがMn^<2+>の溶出と関連していることを考慮すると斜面下部は上部に比べてより還元的であることが示唆される。粘度鉱物は斜面上部でAl-VermiculiteとIllite、下部ではChroliteが卓越した。土壌平衡溶液中のAlの形態に関しては、斜面下部の表層付近では主な形態がAl^<3+>であり、下層(20〜40cm)では6量体が多かった。斜面上部では、表層、下層ともにAl^<3+>が全Alのほとんどを占めた。土壌平衡溶液における斜面下部でのアルミニウムの形態変化は、表層で酸の付加により溶出したものが、pHの上昇に伴い下層にゆくにつれ徐々に沈殿してゆく様子を表していると考えられる。これに対して斜面上部では土壌の酸性化が斜面下部に比べて進行し、pHが低下したため下部でみられたようなアルミニウムの沈殿が起こりにくいと考えられた。 以上のことから、斜面上部の土壌はより乾燥した条件におかれており、酸性化が土壌の下部まで進行しつつあるのに対して、斜面下部ではその酸性化を中和する能力が下層土壌に存在することが明らかになった。また、地形の違いによる土壌中の水分量の違いにより、酸化・還元条件が変化し、土壌溶液中の溶存イオン種に大きく影響を及ぼしていることも明らかになった。
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