本研究の概要をまとめると次のようになる。 調査斜面は愛鷹山北西部標高約900mに位置する林齢63年生のヒノキ林で、林分密度は2200本/ha、斜面は南西向きの平衡斜面である。地質は玄武岩類火山噴出物で、土壌は黒ボク土壌である。 試験地の斜面は水平距離68.2m、垂直距離35.2m、平均傾斜角27.3度である。土層厚は山用地簡易貫入試研機を用いて測定した結果、尾根部で1.5m、斜面中上部で3.0m、中上部で1.0m、中下部で4.0m、下部で4.8mであった。これより斜面中上部では侵食が卓越し、中下部〜下部では堆積が卓越していると推察された。 表層土壌(0〜20cm深)の物理性を斜面上部でスズタケが生育し表面侵食をほとんど受けていないとみられる地点と斜面中部で表面侵食の発生している地点、斜面下部の表面侵食土砂の堆積地で比較した。飽和透水係数では非侵食地では10^<-1>から10^<-2>cm/sec、侵食地では10^<-4>cm/sec、堆積地では10^<-2>cm/secのオーダーを示し、侵食地点では表層土壌の透水性が非常に悪くなっていることがわかった。同じ地点で表層土壌の粒度分析を行った結果、表面侵食を受けた地点ではシルト・粘土の割合が減少し、大きな粒径の割合が増加した。 斜面上傾斜の異なる3地点に1m×2mの区画を設け、約1ケ月ごとに林外降雨量と侵食土砂量を観測した結果、侵食土砂量は降雨量の増加にともなって指数関数的に増加し、高い相関関係が得られた。また、斜面傾斜の増加とともに侵食土砂量が増加する傾向が見られた。 さらに、尾根部から斜面上部、中部、下部の各地点まで移動してくる侵食土砂を捕捉する装置を設け、約1ケ月ごとに測定した。その結果、表面侵食は斜面上で一様に起こっているわけではないこと、主として斜面上方の傾斜変換点付近より発生し、移動・堆積を繰り返し、下方へ流下すること、そのため流域からの侵食土砂量を評価する場合、単に斜面傾斜の面積分布のみで推定すると侵食土砂量は過大に評価される可能性があることなどがわかった。
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