研究概要 |
森林からの蒸発散量の従来の研究は,平坦な場所に広がる森林を対象としたものが多く,微気象的方法や植物生理的な手法が独立に,それぞれ異なったスケールで行われることが多かった。そのため,森林が分布することの多い斜面での森林蒸発散量については情報が不足しており,森林からの蒸発散量の空間分布やその季節変動を議論するには至っていなかった。 本研究課題では,幹熱収支法,微気象的方法,乱流変動法,流域水収支法などを併用し,森林蒸発散量の空間分布とその季節変動の把握を目的とした。 名古屋大学農学部附属稲式演習林内に設置した観測斜面において上部,中部,下部で改良型幹熱収支法による蒸散観測を、斜面の7ケ所に設置したマイクロライシメータにより林床面蒸発量を測定した。微気象観測、乱流変動法を用いた顕熱フラックスの観測も実施した。観測は、夏から初冬にかけ4回実施した。 改良型幹熱収支法による蒸散観測からは斜面位置ごとに異なる蒸散の日変化が観察された。マイクロライシメータにより観察された林床面蒸散量は深さ10cm程度の土壌水分の変動とよく対応し、この傾向は各斜面位置において確認された。 観測を実施した1994年は渇水にみまわれ斜面は例年になく乾燥していた。このため今後も観測を継続し様々な水分条件下で森林蒸発散量の時空間分布の把握を進めていく必要がある。
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