滋賀県田上山の20年生のクロマツ砂防植林地に、谷から尾根にかけて様々な地形を含むように設置された幅40m長さ64mの調査区において、94カ所の測定点を格子状に配置して、リタートラップによって採取されたクロマツの落葉と、リタートラップの上方から採取したクロマツの生葉の養分濃度を測定した。生葉と落葉の養分濃度を比較して、落葉前の養分の引き戻し量の指標とし、立地条件に対するクロマツの養分利用様式の可塑性を検討した。調査区をいくつかの地形に分けて平均値を比較したところ、斜面の下部から上部にむかって、生葉の窒素濃度はわずかに減少しただけであったが、落葉の窒素濃度は大きく減少した。落葉前の窒素の引き戻し率は、斜面下部での40%から上部の70%まで増加した。生葉のリン濃度は斜面位置によって差がなかったが、落葉のリン濃度はチッソと同様に大きく変化した。リンの引き戻し率は、斜面の下部から上部にむかって、チッソの場合よりもさらに大きく変化した。カリウムやマグネシウムでも、落葉の濃度のほうが生葉よりも低くなったが、逆に、生体内で動きにくいとされるカルシウムと養分物質でないナトリウムでは、生葉の濃度よりも落葉の濃度のほうが高くなった。斜面上部において、クロマツは、落葉前の養分の引き戻し量を増加させることにより、養分の利用効率を高めることが示された。斜面の下部から上部という斜面位置の違いによる養分条件の変化に対して、クロマツの養分利用様式が可塑的に変化することが示された。
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