ヤエベニシダレの当年枝にジベレリン酸(GA3)を投与しながら生育させると、その枝は枝垂れずに立ち性の枝となる。この現象は生理活性物質としてのGA3の働きが、枝に負の屈地性を発現させたことに他ならない。本研究はこの枝に生じた負屈地性をもたらす力学的作用に着目し、形態形成と物性発現の2観点から研究をおこなった。枝が枝垂れるというと、柳の枝に代表されるように、枝に自らを支える機械的強度が十分になく、主に自重による曲げモーメントによって枝垂れていると想像しがちであるが、ヤエベニシダレに関しては枝垂れた枝も木化は十分行われており、立ち性の枝ともヤング率に有為な差はないことから、枝垂れ性の枝でも成長が停止する時期においては機械的強度は十分であると結論づけた。組織解剖学的には処理枝にはゼラチン層を有する繊維が枝上側に広く分布しており、その肥大成長も著しいものであったので、これらがもたらす成長応力を測定したところ、処理枝のほうにより大きな枝を上向けようとする力が存在していたことが分かった。そこで細胞分化プロセスにおける両者の違いをしるため、成長期に試料採取を行い、形成層付近の組織観察をおこなったところ、偏心成長著しい処理枝の上側の形成層帯細胞数は約10個、そのほかでは6個であり、形成層活動の活発化による肥大成長量の増大が断面2次モーメントを大きくし、曲げに対する抵抗を大きくしていたと推察された。また、分化された細胞のリグニン沈着がほぼ完了するまでに枝垂れ性枝では細胞数で20個ほどかかっていたが、立ち性枝では10個と早くリグニン沈着が行われ、それによって早く剛性を得ていることも予想された。以上の研究結果から、ヤエベニシダレに生じた負屈地性は形成層活動の活発化によって、成長応力のもたらす上向きモーメントの増加と曲げに対する剛性の増大、さらに枝に早く機械的支持能を持たせ、自重によりたわむのを防ぐ、というプロセスによって説明できる。
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