研究概要 |
1年の特定の時期に同期的に起こる産卵,銀化などの魚類の生理現象は,環境と内因性のリズムに支配されている。なかでも日長は強力な同調因子であるが,その受容・伝達機構については不明な点が多い。この伝達系の有力な候補と考えられているのが松果体と松果体ホルモン・メラトニンである。そこで本研究においては,メラトニン投与が日長の長日化に同期して起こるサクラマスの銀化におよぼす影響について検討した。 まず、サクラマスをLD 16:8(明期4-20時),LD 8:16(明期8-16時)の光周期で飼育し,血中メラトニン濃度の日周リズムを調べた。血中メラトニン濃度は暗期に高く明期に低い明瞭な日周リズムを示した。LD 8:16群の方がLD 16:8群よりもメラトニン分泌亢進時間は長かった。 次に、メラトニンを餌に噴霧し、0.01,0.1,1mg/kg体重の経口投与を行ない、血中メラトニン濃度の変化を調べたところ,血中メラトニン濃度は用量依存的に増加し、経口投与の有効性が確認された。 さらにサクラマス当才魚を7月より10月までLD 8:16条件で飼育した後,光周期をLD 16:8に切り換えて毎日13時にメラトニン(1mg/kg体重)の経口投与を行なった。12月に魚を取り上げ,外観,肥満度,海水適応能試験により銀化を判定した。その結果,銀化個体の出現頻度はメラトニン投与群で67.6%(50/74),対照群で77.6%(59/76)で,両群間に差は認められなかった。 本研究の結果,サクラマスの血中メラトニンリズムは日長に応じた変化を示すことが明らかになった。またメラトニンの経口投与法も確立された。これまでにメラトニンは哺乳類において繁殖期の決定に関与していることが明らかにされているが,本研究ではサクラマスの銀化にメラトニン投与の顕著な効果は認められなかった。今後はメラトニン投与の時刻や回数などを変えてさらに詳しく検討していく必要がある。
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