本年度は、まず既存の文献及び調査資料を用いて、都市排水処理における農業用排水路のもつ役割を理論的に整理した。また、愛知県安城市を中心とした8市にまたがる明治用水土地改良区管内と、名古屋市に隣接する数市町村を流れる農業用排水路を管理している宮田用水土地改良区管内の関係機関及び受益者を対象として調査を実施した。 その結果明らかになったことは、都市化にインフラ整備が追いつかない場合、既存施設を用いて問題に対処することは一つの有効な手段である。しかし、多くの事業は、人々を水から遠ざける方向でこれまで行われてきており、水質等に対する住民の関心のみならず農業者においても用排水に対する関心が薄れる結果を生み出している。従って、排水路についても、単にフタをかぶせれば済む問題として捉えるのではなく、水質向上に結び付く農業用排水路の利用を管理者が住民と共に考えていかなければならないことが明らかになった。 一方、実態調査の結果では、両地区ともに都市化の進展度合は著しく高く、水質保全及び農業生産の省力化を目的として用排分離、パイプライン化が進められてきている。しかし、両改良区とも土地改良施設の維持管理費用は年々増加の一途を辿っているとともに、受益者が多岐にわたっている排水路については、受益の程度に応じて非組合員からの負担金微集を希望している状況にある。一部受益者及び自治体から負担金の微集はあるものの、理論的・定量的な根拠に基づいてはいない。個別世帯においては、集落単位で排水路清掃の行事は行われるものの、それが農業施設へ流入するという意識はなく、維持管理費の負担に対しても消極的である。以上の結果から、個別世帯からの微集は物理的に困難であり、自治体からの負担金微集が最も望ましい。その場合、受益世帯数、排水量、上下流市町村指数等を用いた定量的試算が費用負担には不可欠となることを明らかにした。
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