本研究では、3個のタンクからなる単純な洪水流出モデルにカルマンフィルターを併用した排水機場洪水位実時間予測システムについて、カルマンフィルターの適用条件およびモデルの単純化が予測精度に及ぼす影響と、この予測システムに基づく排水機制御システムの有用性について吟味した。得られた結果は以下のようである。 1.この予測システムを用いて、昭和47年7月および昭和61年7月豪雨時の巨椋・久御山両排水機場における洪水位の予測を行い、カルマンフィルターの適用条件と予測精度との関係について吟味した。その結果、状態変量の推定誤差分散行列の対角項は1×10^<-3>、システム誤差分散は1×10^<-2>〜10^<-3>、観測誤差分散は1×10^<-2>未満程度がよいことが分かった。 2.予測システムを単純化した場合の予測精度の変化について検討した。その結果、洪水位予測の際重要になるピーク水位の予測誤差に着目すると、a)上流域からの流出は非線形タンク1個で表現してもよいこと、b)上流域タンクの孔係数は流出解析の結果に基づいて固定しておいても実用上差し支えないこと、c)他流域からの流入やポンプのon-offにより水位変動が激しい場合は、氾濫域タンク水深をフィルタリングの対象とした方がよいこと、などが明らかになった。 3.セルフチューニングコントロール理論を適用して、排水機実時間制御システムを構築し、このシステムを巨椋流域で発生させた10〜100年確率の仮想出水に適用した。その結果、この制御システムを用いた場合、排水規則に準拠して排水量を決めた場合に比べ、洪水時のピーク水位はあまり変化しないが、流域低地部での湛水時間は大幅に短縮できることが分かった。しかし、水位低減時、排水機が激しい間欠運転が起こし、排水管理上問題となることも明らかになった。
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