本研究は、種苗生産に不定胚形成を応用するため、優良不定胚の判定にその形状を利用することの可能性を探る目的で、不定胚の染色体数をその形状の関係を調べた。実験材料としてはニンジンの不定胚を用いた。まず、ニンジン魚雷型胚の形状による詳細な分類を行い、次にニンジン魚雷型胚の染色体を観察する方法の確立を図った。具体的には、ニンジンの魚雷型胚をCotyledonary part(将来子葉になる部分)の形状によって、6種類に分類し、発芽用培地に移植した後の生育を調べた。その結果、多くのものは、形に関係なく小植物体へと発育するが、実生と同様な過程を経て正常に小植物体へと発育したものはかなり少なく、それらは特定の形状のものであった。この結果は優良不定胚の判定に不定胚の形状を利用することの可能性を示唆するものである。次にニンジンの魚雷型胚の染色体を観察する方法を確立するために、細胞分裂の同調を図るための処理や細胞壁の影響をなくすための処理、また染色方法などの最適条件を調べた。その結果、コルヒチン(0.05%水溶液)処理3時間、酵素(ペクトリアーゼY-23、セルラーゼY-C)処理1時間、酢酸オルセインによる染色(染色時間30分)でニンジンの魚雷型胚の染色体観察が可能であった。不定胚の形状とその染色体数の関係については、時間の関係で多数の不定胚を観察できなかっため、はっきりとした関係を明らかにすることはできなかった。しかしながら、染色体が観察できた不定胚のほとんどは2倍体(n=18)で、異数体としては3倍体のものが若干観察され、それらの胚はroot partが2つに分かれたものなど明らかな奇形であった。今後は、今回確立した分類法および染色体観察法を利用し、より多くの不定胚を観察し、不定胚の形状と染色体数の関係を詳細に調べる必要がある。
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