まず、シバヤギを用いて人為的に病態行動を誘起する感染モデルの作出について検討した。卵巣摘除シバヤギにエンドトキシンであるLPS(リポ多糖)を頚静脈より200ng/kg投与し、投与1時間前より10時間後までの期間について各種の自発行動を詳細に解析したところ、摂食および反芻に費やす時間、飲水およびグル-ミング行動の回数が減少し、逆に排尿回数が有為に増加していた。また、臨床症状としては、縮瞳がLPS投与39.5±3.1〜296.5±9.9分後にかけて、二相性の震えが46.0±2.3〜251.0±5.5分後にかけて、それぞれ認められなど定型的な行動変化が観察された。 次に、この感染モデルを利用し、5頭の動物を供試して各種パラメターの変動とその連関について解析した。体温はLPS投与直後より上昇しはじめ、4時間後にピークに達したのち下降して8時間後には対照群と同レベルにまで低下した。心拍数は投与直後より軽度の増加傾向が観察され、4時間後より再び増加し7.5時間後をピークに減少した。呼吸数に関しては有為な変化は認められなかった。一方、免疫系の指標として用いた白血球、特に好中球数は、投与30分後より減少しはじめ、80分後に最低値を示した後、増加して平常値へと戻った。さらに、内分泌系の指標としたACTHの血中濃度は投与1時間後および3時間後をピークとする2相性の上昇を示した。 以上の結果より、シバヤギにLPSを投与した際には、最初に免疫系が活性化され、その情報が中枢へと伝達された後、自律神経系および内分泌系の賦活と、再現性の高い一連の病態行動が一定の時間的配列に従って発現することが明らかとなり、病態行動は病原体の排除に効率的に取り組むための合目的的な行動であることを強く示唆する成績が得られた。
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