研究概要 |
ハプトグロビン(Hp)は,肝臓で合成・分泌される血清タンパク質であり,急性炎症時に血中レベルが上昇して生体の防御・免疫機能に関与する急性相タンパク質のひとつである.本研究では,ウシHpに着目し,その遺伝子進化の背景をさぐるとともに,特徴的な遺伝子転写調節機構について,いくつかの新知見を得ることに成功した. 1.ウシHp遺伝子の進化 申請者はこれまでの研究成果から,ウシのHpは特徴的な遺伝子重複による分子進化を経て形成されたと予想した.本研究では,ウシゲノムDNAをサザンブロット法で解析して制限酵素地図を作製したところ,ゲノム上に単一コピーで存在することが明らかとなり,重複前の遺伝子は著しく変異したか,あるいはすでに欠失したと予想した.さらに,他の哺乳動物のHpをタンパク質レベルで調べた結果から,ウシで発見した遺伝子重複による分子進化は,広く反芻動物に認められることを明らかにした.なお,当初の実験計画では,ウシHpのゲノムDNAをクローニングして全塩基配列を決定する計画であったが,残念ながらまだクローニングには成功しておらずこの実験は継続中である. 2.ウシHp遺伝子の転写調節 ウシ肝臓におけるmRNA量を調べたところ,Hpの発現は,正常では極めて低いが炎症性疾患で急激に上昇することを明らかにした. さらに,ウシ初代培養肝細胞実験系で調べたところ,炎症性サイトカインのうち,インターロイキン(IL)-6と腫瘍壊死因子(TNF)が,Hp遺伝子の転写を誘導したが,IL-1は効果がなかった.このことは,これまでに報告された急性相タンパク質では,TNFで誘導されるものは例外なくIL-1でも誘導され,両者が共通の細胞内情報伝達系を活性化するとされてきたことと極めて対照的な新知見である.また,泌乳ホルモンであるプロラクチンがウシHpの遺伝子発現を誘導することを,あらゆる急性相タンパク質の中で初めて発見した.
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