本研究では、臨床的に痴呆が疑われる高齢犬を対象として遺伝子組織化学的および免疫組織化学的検索を行う予定であったが、残念ながらあらかじめ設定した痴呆の診断基準に該当する症例を研究期間内に得ることはできなかった。そこで、痴呆の症状の認められない非痴呆症例の老齢犬に関して、脳の免疫組織化学的検索を実施し、その加齢的変化に関して検討を行うこととした。対象犬の死亡後直ちに脳を摘出し、嗅覚系の中枢である嗅球およびヒトのアルツハイマー病において著しい変化の認められる海馬を中心に組織切片を作製した。一般染色としてヘマトキシリン-エオジン染色を行うとともに、アルツハイマー病に特異的なA4タンパク質抗体、β-アミロイド抗体を用いて免疫染色を行った。その結果、一般染色において老人斑あるいはアミロイド沈着などの明瞭な変化は嗅球、海馬ともに認められなかった。また、いずれの免疫染色においても嗅球、海馬ともに免疫反応の認められる部位は存在しなかった。また、本研究では遺伝子組織化学的手法としてin situハイブリダイゼーションを行う前に、組織の固定法、組織切片の処理、ハイブリダイゼーションの時間と温度などに関する至適条件を設定するための検討を行ったが、残念ながら満足のいく至適条件を見い出すことはできなかった。今後は痴呆の疑われる症例を積極的に集めて例数を増やすとともに、早急にin situハイブリダイゼーションの至適条件の設定を行うことが重要であると考えられた。
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