酸素ラジカルによる細胞膜リン脂質過酸化反応が、虚血性心筋障害を惹起するという仮説を検証するため、以下の研究を実施した。 1)高速液体クロマトグラフィーを用いたリン脂質ヒドロペルオキシド定量法の確立:シリカゲルカラムを用いた順相高速液体クロマトグラフィーとチオシアン鉄法に基づくポストカラム反応を組み合わせることにより、フォスファチジルエタノールアミン(PE)ならびにフォスファチジルコリン(PC)のヒドロペルオキシド(R-OOH)の分離、検出が可能となった。それぞれの検量線を作成したところ、6pmol-1nmolの範囲で良好な直線性を示した。この方法は数10mgの生体試料にも応用可能であることから、以下の試験管内虚血性心疾患モデルの解析にとくに有用であると考えられた。 2)試験管内虚血性心疾患モデルにおけるリン脂質過酸化反応の解析:心筋細胞と類似した代謝特性を示す、ラット骨格筋由来L6細胞に酸素ラジカル(過酸化水素およびスーパーオキサイドアニオン)あるいは有機ヒドロペルオキシド(ブチルヒドロペルオキシド)を負荷して酸化的条件を作出した。本細胞にはPE-OOHおよびPC-OOHがそれぞれ85.2±5.6pmol/106cellsおよび7.16±0.70pmol/106cells含まれており、PEはPCと比較して過酸化されやすいことが示唆された。一方、各種の酸化的条件下で、リン脂質ヒドロペルオキシドの変動は観察されなかった。リン脂質過酸化反応の最終産物である低級アルデヒドについても定量を行ったが、その変動は観察されなかった。これらの結果は、リン脂質ヒドロペルオキシドならびにその分解産物である低級アルデヒドの代謝・消失速度が著しく高いことを示すと推測された。したがって今後は、酸素ラジカルを消去する酵素系や、リン脂質過酸化反応産物の代謝についても検討を進める必要があると考えられた。
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