研究概要 |
平成6年度は、アルツハイマー病のモデル動物開発のための予備研究が主に行なわれた。まず、イヌにおける老人斑脳血管アミロイド症の発生動向を知る目的で、病理解剖されたイヌの脳を病理組織学的に検索し、老人斑,脳血管アミロイド症の有無を多症例について検討した結果,これらの脳病変をもつ症例が69例収集された。これらの症例を各々、老人斑のみ,血管アミロイド症のみ,老人斑と血管アミロイド症の両方の病変を持つ群に分類し、老人斑と脳血管アミロイド症の発生動向の異差を検討した。その結果,老人斑,特にβタンパク沈着の初期像と考えられているdeffuseplaqueの発現は、これまで考えられていたのと異なり,必ずしも高年齢層に発生するものではなく,またその病変の重度も年齢と相関しないことが明らかになった。このことから、イヌの脳におけるβタンパクの沈着は、ある程度分化の進んだイヌに、何らかの誘因を加えることにより再現することが、可能であることが予想される。今後、この誘因を調べることで、モデル動物作出が可能となると思われた。一方,βタンパクが、その前駆タンパクから産生される過程には、様々な物質が関与していることが予想されているが、イヌの老人斑,脳血管アミロイドに関しても検討を加えた。その結果,タンパク分解酵素である、Cathepsin D,セリンプロテアーゼ,インヒビターであるα_1-Antichymotrypsin,システインプロテアーゼインヒビターであるCystatin Cなどが、老人斑のうち、成熟型とされているアミロイド斑、に局在がみとめられるものの、deffuseplaqueには認められないことから、これらは、βタンパクの産生に直接関与する可能性は乏しく、むしろ、老人斑の成熟やアミロイド形成に関与するものと思われる。一方、アポリポタンパクのAPOEは、アミロイド斑,diffuseplaqueのいずれにも局在を示すことから、βタンパクに密接に関係を持つものと予想された。また平成6年度にはイヌ以外の動物,クマ,ラクダ,ネコの老人斑,脳血管アミロイド症の形態を明らかにし、現在、海外の学術雑誌に公表あるいは投稿中である。
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