細胞質に存在するリソゾームシステインプロテアーゼの一つであるシスタチンβのPC12細胞における機能を明らかにする目的でアンチセンスオリゴヌクレオチド法によるシスタチンβの発現抑制を試みた。複数のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用意したが有為な発現抑制は認められなかった。特にNGFで神経様に分化させる実験など長時間におよぶ系では安定した結果を得るのが難しいと考えられた。そこでアンチセンスオリゴヌクレオチド法による一過性の発現抑制ではなくアンチセンスベクターによる恒常的な発現抑制の系を検討することにした。 その手始めとしてPC12細胞が発現ベクター導入によって持続的かつ安定な発現クローンを得るのに適した細胞であるか検討してみた。ヒト原型癌遺伝子bc1-2のcDNAをRSV-LTRプロモーターに連結したベクターを作製しリン酸カルシウム法によりPC12細胞に遺伝子を導入したところ6つの安定発現株を得た。いずれの株においてもヒトbc1-2がmRNA及び蛋白の両方のレベルでNGFによる神経分化誘導や血清除去によるアポトーシスの誘導刺激においても安定して発現していることをノーザンブロット法及びイムノブロット法にて確認した。このことよりRSV-LTRプロモーターによって発現が支配されるベクターがPC12細胞において有効に機能することが明らかになった。そこで現在シスタチンβのcDNAをRSV-LTRプロモータに逆向きに組み込んだ発現ベクターを作製している。このベクターは恒常的にシスタチンβのアンチセンスmRNAを発現することが予想され、その結果PC12細胞におけるシスタチンβの蛋白レベルでの発現が抑制されることが期待できる。
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