研究概要 |
本研究では,エストロゲンとプロゲステロンとの乳腺組織に対する作用の相互関係と,その両者の作用に対するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の関与の解明を目的とした.そのための方法として,それぞれのホルモンに対する受容体の局在を検討した. 第一段階として,ヒト乳癌組織(手術材料)におけるエストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PR)を検出し,その局在の相互の位置関係について検討した.ERとPRは同一細胞に共存するか否かを,隣接する凍結準超薄切片を用いて検討したところ,光顕的に,ERおよびPRの反応はいづれも乳癌細胞の核に局在し,また,両者は高頻度で同一細胞の核に存在することが明らかとなった.電顕的にも,ERおよびPRの局在は光顕所見と対応し、核内の正染色質に反応が認められた.細胞質内にほとんど反応は認められなかった.今回検討した範囲の症例では,ERおよびPRの両方に陽性な細胞の割合は,症例により大きく異なったが,平均50%以上であった.それ以外に,ERのみに陽性である細胞の割合は症例により5〜25%と大きく変動したのに対し,PRのみを有する細胞の割合は3%以下と少なかった. 本研究ではじめて検討された"ERおよびPRの共存率"が乳癌の性質を決める新しい指標となり得ることは,既に報告した(第23回臨床電顕学会,平成6年10月).さらに原著論文として公刊すべく目下投稿準備中である.また,今後症例を重ね,病理組織像,EIA値,あるいは臨床像などとの関連についての解析を継続中である.なお,乳腺組織でのGnRH受容体の働きについては十分な成果を得られず,また動物モデルの確立に関しては最終的な判断には至っていない.
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