研究概要 |
1.発現系の構築 表裏の方向性を持つような上皮細胞系における,外来(Na,K)ATPaseβサブユニットまたは(H,K)ATPaseβサブユニットの発現系の構築に着手した.ホストとしてはヒト小腸上皮細胞癌由来の培養細胞株Caco-2を用いることとした.この細胞は培養系において単層の上皮様に成育し倍地側には微絨毛構造を形成することが報告されており,近年上皮における物質の輸送の研究に用いられている.このCaco-2の培養系を立ち上げconfuluentの状態で単層上皮様構造を取っていることを確認した.外来βサブユニットの発現のための発現プラスミドはcytomegalovirus immediate early enhancer/promoterを持つ動物細胞用発現ベクターpCEP4を用いて構築した.(Na,K)ATPaseβサブユニットについてはシビレエイTorpedo califomica発電器官由来のcDNAクローンより,開始メチオニンの上流約40bpからpolyAまでを含む1.9kbpのフラグメントを切り出し,pCEP4のpromoterの下流に挿入し発現プラスミドpCEPNβを構築した.(H,K)-ATPaseβサブユニットについては,ブタ胃壁由来のcDNAクローンの5´側,3´側両非翻訳領域を(Na,K)ATPaseβサブユニットのものとすげ替えたプラスミドpSPHβより,同様に開始メチオニンの上流約40bpからpolyAまでを含む1.8kbpのフラグメントを切り出し,pCEP4のpromoterの下流に挿入し発現プラスミドpCEPNβを構築した.これらの構築に用いたβサブユニット遺伝子はいずれもXenopus oocyteの発現系において機能的な形で発現することが確認されている.これらの発現プラスミドpCEPNβ,pCEPHβを電気穿孔法によりCaco-2に導入しベクターのハイグロマイシン耐性遺伝子により遺伝子組換体の選択を行う.現在電気穿孔法による遺伝子導入の条件を検討中である. 2.生合成初期におけるαβ相互作用 (Na,K)ATPaseにおいてβサブユニットの共存によってαサブユニットの安定化がおこり発現量が増大することを以前に報告したが,逆にβサブユニットにおいてはαサブユニットの共存により発現量が低下することを見いだした.この現象をさらに詳細に検討するためXenopus oocyteの発現系でパルスラベルを行い合成産物の経時的変化を観察した.その結果αサブユニットの共存下においては1時間のラベル終了時にすでにβサブユニットの発現量の低下が見られ,βサブユニットの翻訳の調節が起こっている可能性が示された.現在さらにラベル時間を短くして生合成の極めて初期にどのようなαβ相互作用が起こっているのかを検討中である.
|