概日リズムをもたらす生物時計は、哺乳類において、視床下部の視交叉上核(SCN)に存在する。in vivoの実験系において、SCNのvasoactive intestinal polypeptide(VIP)の光刺激に対する反応性は、刺激を始めた位相に依存することが示されている。これはVIP上で光情報と時間情報が統合されることを意味している。今回、in vitroの実験系でこの現象を再現し、時間情報が神経栄養因子(NGF)によってもたらされる可能性を調べた。 in vitroの実験系としては、SCN切片を2週間回転培養したものを用いた。2時間毎にSCNから培養液中に放出されるVIP量を酵素免疫測定法によって調べたところ、明確なサーカディアンリズムを示した。このことから、in vitro SCNにおいても、VIPが時間情報によって制御されていることが示された。次に、光情報をSCNに伝達する受容体と考えられているN-methyl-Daspartate(NMDA)受容体の作動薬(NMDA)を投与したところ、位相依存性にVIP放出リズムの位相を変えた。このことから、in vitro SCNにおいても、VIP上で光情報と時間情報が統合されることが明らかになった。一方、NGFをSCN培養細胞に投与すると位相依存性に前癌遺伝子であるc-fosが発現した。また、in vivoで、NGFをSCNに投与すると位相依存性に行動リズムの位相を変えることが示された。これらのことは、NGFが時間情報を担う物質であることを示している。以上のことから、時間情報がNGFを介してVIPに伝えられている可能性が考えられた。
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