研究概要 |
末梢部位の皮膚には動静脈吻合が豊富であり,同部では核心温以上の局所温熱負荷に伴い血管が収縮する。この温熱性血管収縮反応(HIVC)の機序としてヒトの指での実験から、局所からの温度入力の増加に起因する中枢を介した反射性血管収縮の関与が推察されている。また、ラットの尾部では、局所温上昇による筋原性血管収縮の関与が示唆されている。しかしそれぞれの要因がHIVCの発現にどの程度関与しているかは明確ではない。本研究ではウサギの耳介で実験を行いその点を明らかにする計画であった。しかしヒトの指でのHIVCに局所の温度効果による筋原性血管収縮が関与するか否かは検討されておらず、それらを明らかにするためまずヒトでの実験を行った。成人男子5名の被験者に環境温35℃、相対湿度40%下で、左手薬指の指根部に局所麻酔薬(0.5%bupivacaine)を注射し指ブロックを行った。対照として左手人差し指に生理食塩水を注射した。指ブロックの効果を確認した後、左手の指を水温を35℃に設定した恒温水槽につけた。 人差し指と薬指の血流量をレーザードップラー血流計で測定し、中指の皮膚温と恒温水槽の水温を測定した。血流量が安定した後、水温を35℃から42℃まで15分間で一定の割合にて上昇させた。対照指の血流量は、水温上昇に伴い減少し、水温36℃から38℃付近にかけ加温前に比べ有意に減少した。しかしブロック指では、水温上昇に伴う血流量の変化は認められなかった。指ブロックによりHIVCが消失したことから、ヒトの指のHIVCには、ラットの尾部で報告されているような、血管平滑筋の筋原性収縮の関与は極めて小さく、上位中枢を介する血管収縮反射が機序として重要であると考えられた。現在ウサギ耳介のHIVCに上記2種の機序がどの程度関与しているかについて検討中である。
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