研究概要 |
ラット潅流心臓を用いて、hydrogen peroxide(H_2O_2)に対する低酸素潅流の心筋保護効果に、アデノシンA_1受容体およびATP感受性Kチャネルの活性化が関与しているか否かを検討した。実験は摘出心臓をLangendorff式に定流量潅流し、電気刺激により心拍数を一定にして行った。潅流液は95%O_2あるいは20%O_2で飽和し、それぞれ高酸素潅流液(_pO_2=550mmHg)、低酸素潅流液(_pO_2=150mmHg)とした。20分間の高酸素潅流の後、引き続き高酸素潅流を行う群(高酸素潅流群)と低酸素潅流を行う群(低酸素潅流群)に分けた。これらの群で高酸素潅流または低酸素潅流を5分間行った後、両群とも再び高酸素潅流を30分間行った。低酸素潅流群では、低酸素開始1分後より3分間H_2O_2600μMを投与し、高酸素潅流群においても同様のプロトコールでH_2O_2を投与した。高酸素潅流群にH_2O_2を投与すると、左心室内のdeveloped pressureの低下とend diastolic pressureの上昇(心機能障害)、ならびに組織中ATP含量の低下(エネルギー代謝障害)が認められた。それに比較し、低酸素潅流時にH_2O_2を投与した群の心機能障害やエネルギー代謝障害は著しく軽度であった。これらの低酸素潅流による心筋障害抑制効果は、アデノシンA_1、A_2受容体の拮抗薬である8-phenyltheophylline(8-PT)5μM,アデノシンA_1受容体の拮抗薬である1,3-dipropyl-8-cyclopentylxanthine(DPCPX)0.1μM、およびATP感受性Kチャネルの抑制薬であるglyburide(Gly)5μMによって減弱した。しかし、8-PT,DPCPXおよびGlyは、H_2O_2非投与低酸素潅流心臓の心機能やエネルギー代謝に対して影響を及ぼさなかった。以上の結果から、H_2O_2による心筋障害に対する低酸素潅流の保護効果には、少なくともアデノシンA_1受容体およびATP感受性Kチャネルの活性化が関与することが示唆された。
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