血管平滑筋細胞の分化制御機構を分子レベルで解明することを目的としてE12遺伝子を導入したラット大動脈由来平滑筋細胞を平成5年度中に確立することができた。今年度はその細胞を用いて平滑筋の分化マーカーであるカルデスモン、α平滑筋型アクチンの発現量をそれぞれの抗体を用いてイムノブロット法で調べた。対照として用いた細胞はラット大動脈中膜平滑筋組織から酵素法により得た細胞を継代培養した細胞を用いた。E12遺伝子はRSVベクターに組み込んでリン酸カルシウム法で継代ラット血管平滑筋培養細胞に導入した。この2種類の細胞から蛋白質を抽出し蛋白量を定量後それぞれ同量を電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写し抗体反応を行った。カルデスモン、α平滑筋型アクチンの分子量に相当する部分をPDIデンシトメーターで定量を行った。その結果両者に有意差は見られなかった。また最近、ラットのα1及びβ2アドレナージックレセプターのcDNA塩基配列が報告された。そこで両者に特異的なPCR用のプライマーを作製し2種類の細胞からRNAを抽出して逆転写反応を行いPCR(RT-PCR)を行った。そしてBAS2000を用いて定量化するとα1レセプター発現量/β2レセプター発現量の値が対照細胞では低いのに対しE12遺伝子導入細胞では高いという興味ある知見が得られた。以上の結果から培養血管平滑筋細胞は脱分化しておりE12の発現量を増加させるだけでは分化させるのに十分ではないことがわかった。さらに培養条件を検討することでE12のカウンターパートである平滑筋特異的転写因子の発現量を増加させることが必要と考えられる。
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