研究の目的はメラニン合成関連遺伝子の色素細胞特異的な発現機構を明らかにすることであり当該年度に以下の事を明らかにし発表している。 1:ヒトチロシナーゼ遺伝子の色素細胞特異的転写機構 ヒトチロシナーゼ遺伝子の転写開始点から上流約-1.8kbに存在する配列TDE(Tyrosinase Distal Element)を見い出した。競合阻害実験等によりTDEに特異的に結合する因子がbasic-helix-loop-helix-leucine zipper(bHLH-LZ)構造を持つ転写因子USFに近い性質を持つことが示されたので、bHLH-LZ構造を持つ転写因子USFとMITFについてチロシナーゼ遺伝子の転写活性に対する効果の解析を行った。MITFはメラニン細胞やマスト細胞の欠損などを表現型とするmicrophthalmiaマウスの原因遺伝子産物Miのヒト相同産物である。解析の結果、MITFがTDEを介してチロシナーゼ遺伝子の転写を活性化することが明らかになった。これはチロシナーゼの発現を調節する転写因子がはじめて報告された事例である。またこれによってMITFが転写因子として実際に機能する事が確認された。 2:ヒトTRP-2遺伝子の単離と構造解析 ヒトTRP-2(Dopachrome Tautomerase)cDNAを単離し一次構造を明らかにするとともに、その遺伝子産物がDopachrome Tautomerase活性を持つことを確認した。次にヒトTRP-2の遺伝子をクローニングし、転写開始点上流領域を中心とした塩基配列を決定した。さらに遺伝子導入実験により、TRP-2遺伝子の転写開始点から上流-447bp/-415bpと-268bp/-56bpの二つの領域が色素細胞特異的な発現に必要な領域であることを明らかにした。
|