アクチン系細胞骨格の構成蛋白質であるα-アクチニンは筋細胞中に発現する筋型と筋以外の組織に発現する非筋型の2種類に大別される。非筋型α-アクチニンのアクチン結合はカルシウムにより調節されるが、これはさらにそのカルシウム感受性の違いにより線維芽細胞型と肺型に分類される。肺型の発現は主に血管内皮細胞に認められるが、その精製標品にはフォスファチジルイノシトール二リン酸(PIP_2)が強く結合していることが明らかになった。このPIP_2結合性が肺型分子種に特異的であるかどうかという問題を明らかにするために、肺型および線維芽細胞型α-アクチニンcDNAを大腸菌内で発現、精製し、大腸菌由来のPIP_2がこれらのリコンビナント分子に結合してくるか否かを解析した。その結果、肺型分子のみにPIP_2が強く結合していることが示された。さらに、界面活性剤を用いた精製方法によりこのPIP_2非結合型の肺型α-アクチニンを単離することを試みたが0.1%TritonX-100存在下においてもPIP_2の結合に変化は認められなかった。そこで培養血管内皮細胞を材料として肺型α-アクチニンの粗精製分画を得た後、抗PIP_2抗体を用いて、これにPIP_2が結合しているか否かを解析したが、この方法によって得られた肺型α-アクチニンからはPIP_2が検出されなかった。また、この分画を用いてアクチン結合におけるカルシウム感受性を解析したところ、そのアクチン結合性は1 mMのCaCl_2によって著しく抑制されることが示された。これらの結果は肺型α-アクチニンにはPIP_2を結合する特異的な一次構造が存在すること、そしてその構造へのPIP_2の結合を調節する機構が内皮細胞に存在することを示唆していた。さらに、PIP_2は肺型α-アクチニン分子と結合することによって、そのアクチン結合におけるカルシウム感受性を変化させる可能性を示唆していた。
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