高血糖に伴い多くの生体タンパク質が、非酵素的に糖付加反応を受けている。この反応はメイラード反応と呼ばれ、グルコース等の還元糖がタンパク質のリジン残基を介してシッフ塩基を形成し、アマドリ転位反応生成物に至る前期反応と、更に長期の反応を経て褐色変化、蛍光性あるいは分子間および分子内架橋を特徴とする後期生成物(Advaced Glycation End Protducts;AGE)に至る後期反応から構成される。AGEが糖尿病合併症や老化現象と密接に関係することが指摘されているが、その反応経路や生成物の構造に関する情報は極めて少なく、後期段階の如何なる構造体がこれらの病変発症と関係しているかなどの物質論的な情報に乏しいのが現状である。我々は、AGEの主要構造体の化学構造を決定と、その構造体の生体内発現機構の解明を目的として実験を行い下記のような成果を得た。 1、主要蛍光物質X1の単離および構造解析 最も単純なモデル化合物であるα-Tosyl-L-lysine(Tos-Lys)およびそのmethylester誘導体(Tos-Lys-oMe)を用いて、グルコースとメイラード反応させ、蛍光・褐色性のAGE-TOS-LysおよびAGE-Tos-Lys-oMeを調製した。逆相HPLC(C18)による解析の結果、反応時間に比例して顕著に蛍光性を増加させているピークを検出し、主要蛍光物質X1と命名した。各HPLC溶出画分と抗AGE抗体との反応性を検討したところ、X1の溶出位置の近傍にその反応性が集中していることが判った。そこでこのピークX1を逆相HPLCにより単離精製した。1H-NMR、13C-NMRおよびMassスペクトルによる構造解析によって、X1の分子量は832であり、2分子のグルコースが2分子のリジンのε-アミノ基を介して結合し、ピリジウム環を形成している蛍光物質であることが判明した。 2、X1の免疫化学的解析 X1がAGEタンパク質や生体タンパク質に発現しているかどうかを解析するために、X1をカブトガニヘモシアニン(KLH)と重合させ、兎に免疫することにより抗X1-KLH抗血清を得た。抗X1-KLH抗血清はAGE-BSAやその他のAGEタンパク質と有意に反応したが非修飾タンパク質とは反応しなかった。更に、生体タンパク質である、ヒト正常レンズタンパク質とも反応した。これらの結果より、AGE-Lys誘導体より分離した主要蛍光物質X1は、AGEタンパク質上に発現するAGE構造体の一つであり、生体タンパク質にも発現していることが判明した。
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