神経細胞の骨格蛋白である神経細胞線維(neurofilament以下NF)のリン酸化はNFの機能発現に必須なNF群のアセンブリーに関わり、また筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)その他の神経疾患において異常なリン酸化が報告されていることから、近年特に注目を集めている。 本研究では部位特異的リン酸化およびそれに関わる可能性のある糖鎖付加修飾を解析するための方法論を確率するために、まずウシNF-Lのクローニングおよびアミノ酸配列を決定した。その結果ウシではtail domain内に合計12残基のAla-Glu反復配列があり、そのためにすでに報告されている他の哺乳動物種に比べて最も長いアミノ酸長であった。また、NF-Lでは初めてN末端アセチル化を同定した。 次に、いずれの哺乳類NF-Lにおいても保存されているtail domain内Ser473のリン酸を調べるため、ウシの脊髄よりフォスファターゼ阻害剤存在下において常法に従ってNF-Lを精製したのち、臭化シアンによる化学的切断および酵素消化によりtail domainを得、このポリペプチドに対してエレクトロプレイイオン化質量分析・キャピラリー電気泳動分析を行なうことによってこのSer残基のリン酸化の割合を70%と決定した。大脳より精製したNF-Lについても同様の解析を行なったがリン酸化の割合は同程度であって。これは以前にラットにおいて報告されていた値と同程度であり、NF-Lが生体内で他の分子と構造体を形成し機能を発揮する上でリン酸化分子と非リン酸化分子がともに必要であるのかも知れない。 NF-Lには0-GlcNAcの存在が報告されているが、本研究ではウシNF-Lを材料として、メタ過ヨウ素酸酸化後にヒドラジドを結合させる糖検出系(Glycan Detection Kitによる)、レクチンによる分析、さらにピリジルアミノ化ラベル法に基づいた糖組成分析などを行ない、0-結合型糖鎖の他にN-結合型糖鎖の存在を示唆するデータを得たが、確証を得るには至らなかった。
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