マウス培養細胞株に種々の微細変異を導入する一般的な方法を確立することを目的として、家族性アミロイドポリニューロパシー(FAP)の原因となる点変異をttr遺伝子に導入することを試みた。置換ベクターは、5.9kbのttr遺伝子断片の第2エクソンにFAP患者と同一のアミノ酸変異をもたらす点変異を導入し、第2イントロンに選択マーカー(G418耐性遺伝子及びHSV-tk遺伝子)を挿入した。そして、選択マーカー上流に隣接した約3kbの領域をマーカー下流にも配置し、順向き繰り返し構造にした。点変異の導入では、まず、ベクターと内在性遺伝子とで相同組換えの起きた株を単離した後、これらの株をガンシクロビール(GANC)存在下で培養し、繰り返し配列間での組換えにより選択マーカーを欠失して点変異のみが導入された株を同定した。ベクターを細胞へ導入後185個のG418耐性株をスクリーニングしたところ、2個の相同組換え株を得た。この頻度は、以前に、今回と同じttr遺伝子断片を相同領域に用いて行ったknockout実験とほぼ同じ頻度であり、ベクター内部の繰り返し配列の存在は、相同組換え頻度には大きな影響はないものと考えられた。さらに、この2株をGANC存在下で培養し、繰り返し配列間での組換えによりマーカーを欠失した株の選択を試みた。ところが、この2株は同一のゲノム構造であるにも関わらず、GANC耐性株数に、5-10倍の差を認めた。それぞれの株について147個、19個のGANC耐性株を解析したところ、それぞれ、11個、16個の株で期待した組換えを認め、それ以外の大部分は、組換えを起こさずに選択マーカーを保持したままであった。これは、HSV-tk遺伝子の機能の不活化が、組換え株を選択する効率を低下させていることを意味する。
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