研究概要 |
本研究課題について、以下のような実験を行い、得られた新知見を報告する。 1.MHC class ||抗原/インバリアント鎖遺伝子座の変異あるいは欠損の有無の検索…扁平上皮癌由来株3種、腺癌由来株3種、大細胞癌由来株4種、小細胞癌由来株4種からDNAを抽出し、作成したHLA-DRα鎖、β鎖、インバリアント鎖に特異的なプライマーを用いたPCRを行ったところ、14株すべてにおいてHLA-DRα鎖,β鎖、及びインバリアント鎖をコードするDNAの存在が確認され、またその変異は認められなかった。 2.肺癌培養細胞株におけるインターフェロン(IFN)-γによるMHC class ||抗原/インバリアント鎖の発現状態の検討…上記肺癌培養細胞株からmRNAを抽出しRT-PCRを行ったところ、IFN-γ無添加条件においても非小細胞癌由来株10種にはHLA-DR抗原の発現が見られるのに対し、小細胞癌株には全くHLA-DR抗原の発現がないことが明らかとなった。また、小細胞癌由来株のうち3種にはインバリアント鎖の発現も認められなかった。IFN-γ添加条件においても、小細胞癌由来株の1種にはHLA-DR抗原の誘導は認められなかった。ノーザン法において検討すると、IFN-γ添加条件により誘導された小細胞癌由来株のHLA-DR抗原、インバリアント鎖のmRNA量は、非小細胞癌由来株に比べて少量であることが判明した。(欧文誌投稿中) 3.IFN-γレセプターの発現状態の検索…上記肺癌培養細胞株からmRNAを抽出し、作成したIFN-γレセプターに特異的なプライマーを用いたRT-PCRを行ったところ、14株すべてにおいてIFN-γレセプターの発現が認められた。 以上より、肺癌培養細胞におけるMHC class ||抗原、インバリアント鎖の発現状態は、小細胞癌と非小細胞癌との間で、(1)MHC class ||抗原及びインバリアント鎖誘導因子無添加状態すなわち自発的なMHC class ||抗原/インバリアント鎖発現状態、(2)誘導因子添加によるMHC class ||抗原/インバリアント鎖誘導性、のいづれにおいても大きな差異が認められた。検索した全ての細胞株にIFN-γレセプターの発現が認められたことから、この差異はレセプターからMHC class ||抗原/インバリアント鎖生成に至る細胞内シグナルのレベルに起因するものであると推察された。今後は、特に小細胞癌由来株の細胞内シグナルの異常について更に検討する計画である。
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