1.過去20年間(1974-1993)の論文、学会報告及び剖検輯報を検索し、肝原発の悪性リンパ腫症例を抽出した。次に該当症例の存在する施設に連絡を試み、自験症例と併せ、10例を収拾し得た。 2.各症例の病理組織学的、免疫組織科学的、及び臨床病理学的検討を行った。その結果、収集した10症例すべてがびまん性リンパ腫であり、うち8例がB細胞リンパ腫、1例がT細胞リンパ腫であった。また、残りの1例は、B及びTマーカーともに陰性であり、細胞由来を特定できなかった。ホジキン病の症例はなかった。腫瘍細胞は8例で大細胞型であった。小細胞型の症例は見られず、明らかなmonocytoid B-cell lymphoma(MBCL)の組織像を示すものもなかった。背景肝病変については、血清HBsAgは全例で陰性、血清HCVAbは2例で陽性、3例で陰性、他の5例は未測定であった。病理組織学的には1例が慢性肝炎、2例が肝硬変の像をしめしていた。一方4例では明らかな背景肝病変は見られなかった。残り3例は背景肝病変の十分な評価を行えなかった。HCVモノクローナル抗体の免疫染色では、2例で陽性所見を得たが、6例では陽性所見を得られなかった。残りの2例は検索できなかった。なお、1例のみ見られたT細胞リンパ腫には、背景病変としてSLEを認めた。悪性リンパ腫と背景肝病変との関係については、B細胞リンパ腫8例中、1例はHCVAb陽性であり、組織学的にもウイルス性の慢性肝炎の所見を認めた。2例は組織学的にウイルス関連が疑われる肝硬変が認めめられ、HBsAg陰性であった。しかしHCVAbは未検索、HCVモノクローナル抗体でも陽性所見は得られなかった。2例は背景肝の組織像は不明であったが、HCVモノクローナル抗体にて陽性所見が得られた。また、B及びTマーカーともに陰性の1例にHCVAb陽性所見を認めた。 3.以上、肝原発の悪性リンパ腫10例中6例(60%)に背景病変としてのC型慢性肝炎の合併の可能性が疑われ、C型慢性肝炎の急増とともに、今後これを背景とした肝原発の悪性リンパ腫の増加の可能性が示唆された。
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