前癌状態と考えられている異形成細胞や初期癌といえる上皮内癌細胞の染色体分析は、従来の方法では、事実上不可能である。異形成や上皮内癌は、生検や細胞診で診断されるため、固定・染色が必要であり培養は不可能だからである。また、異形成や上皮内癌の診断は、患者の治療方針を大きく左右するため、一部と言えども研究用に用いるのは倫理的にも問題がある。従って、異形成細胞や上皮内癌細胞の染色体異常の有無について検討するためには、診断に用いた病理組織標本や細胞診材料で出来なければならない。この点、我々が開発してきた方法はこれを満たすものである。今回、申請した研究の目的は、従来不可能であった子宮頚部の異形成上皮細胞・上皮内癌細胞の染色体数的異常について検討することである。材料は、異形成上皮9例、上皮内癌2例、扁平上皮癌4例で、方法は、すでに我々が報告してきた方法に従った(『医学のあゆみ』159:193-194(1991))。プローブは、ビオチン化された17番染色体特異的プローブを用いた。その結果、正常上皮および軽度異形成上皮では核一個あたりシグナルは最大2個までであり、いわゆるマイナ-シグナルは認められず、各プローブに特異的なシグナルであると思われた。しかし、核一個あたり3個以上のシグナルを有する数的異常細胞の割合は、中等度異形成上皮では1.9%、高度異形成上皮では2.2%、上皮内癌では12.3%、扁平上皮癌では15.0%であった。扁平上皮癌では5個以上のシグナルを有する細胞も認められ、異形成の進行に伴う染色体数の変化がみられた。また、上皮内癌組織1例において、数的異常細胞のマッピングを行ったが、その偏りは明らかではなかった。分布に関しては今後症例を増やして検討する必要があると思われた。今回、17番染色体についてのみの検討となったが、その他の染色体についても検討が必要と思われた。以上の結果の一部は、第41回日本臨床病理学会総会にて発表した。
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