今回の研究では大動脈-冠状動脈バイパス術(以下、CABG)で用いられる静脈グラフト(以下、SVG)の組織学的変化を剖検例を中心に検討した。CAGB後2週間以上経た症例では全例にSVGの内膜肥厚が認められ、術後約半年間は内膜肥厚の程度は術後期間に依存していた。しかしながら、これらのSVGの狭窄の程度は最大で50%であり臨床的には問題となるものではなく、SVGの生理的な組織反応(適応)と考えられた。グラフト不全を起こすような高度の狭窄を示すSVGはCABG後7か月以上の症例で見られた。内膜肥厚の程度に関係なく内膜肥厚部では平滑筋細胞の増殖が著明であり、CABG後6か月以内の症例ではほとんどの平滑筋細胞が合成型phenotypeでありデスミンの発現が著明に減少していた。これらの平滑筋細胞は抗エンドセリン抗体陽性でありエンドセリンが内膜平滑筋細胞の増殖に関わっている可能性を見い出した。さらに、proliferating cell nuclear antigen (以下、PCNA)の発現が見られ活発な細胞増殖を示していることが明らかにされた。CABG後7か月以上のSVGでは内膜平滑筋細胞は収縮型phenotypeの状態でありデスミンの発現は増加していたが、PCNA陽性細胞は認められず増殖能は非常に低いことが判明した。以上の結果から合成型平滑筋細胞がSVGの内膜肥厚に深く関わっていることが示唆された。平滑筋細胞のphenotypeの変化や増殖の調節機構に関しては今後の研究で解明していきたい。
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