研究概要 |
大腸癌に認められる分岐構造の形成メカニズムを明らかにするため、我々が作成した大腸腺癌培養細胞株WiDrと線維芽細胞の培養上清を用いて分岐構造をin vitroで再現する実験系を用いて、分岐構造の形成メカニズムを検索した。間質分解酵素メタロプロテアーゼ(MMPs)及びインヒビターTIMPsの発現異常が分岐構造の形成に関与している可能性をノザン解析を用いて検討したが、分岐構造の形成に伴う1型コラーゲン分解酵素(MMP1)、及びそのインヒビターであるTIMP-1,2の発現量には変化を認めなかった。次に細胞運動の亢進を来たすことが報告されている肝細胞増殖因子HGF/-SFによって分岐構造の形成が再現可能であったことから、線維芽細胞の培養上清あるいはHGF/SFによる運動性の亢進と形態変化との関係を検討した。dish上におけるWiDr細胞の運動性をcell dissociation assayによって検討した結果、20%(v/v)以上の線維芽細胞の培養上清あるいは5ng/ml以上のHGF/SFによってcolonyの明瞭な解離が認められた。一方、線維芽細胞の培養上清の存在下においても分岐構造を形成することのない大腸腺癌細胞RCM1は線維芽細胞の培養上清、HGF/SFいずれによってもcolonyの解離を示さなかった。したがって分岐構造は細胞の運動性の亢進によって惹き起こされる現象である可能性が強く示唆された。この仮説を裏づけるために、今後はHGF/SFを介した細胞運動の制御機構が分岐構造の形成にも作用していることを示していく予定である。
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