研究概要 |
フリーラジカルによる生体高分子損傷は変異、発癌、老化、放射線効果、坑癌剤活性等の種々の生物学的過程で重要な役割を果たす。低分子鉄キレート化合物である鉄ニトリロ三酢酸の投与はラットやマウスに高率に腎癌を誘発する。本研究代表者はこれまでに脂質過酸化物の測定等により、この発癌系でフリーラジカルが深く関与することを示してきた。今回新たに腎クロマチンにおいてヒドロキシラジカルに特徴的なDNA修飾塩基の生成をガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリーによる測定で証明し、また変異原性の確立された過酸化脂質である4-hydroxy-2-nonenal修飾蛋白に対する抗体を使用しその存在を証明した。更に誘発された腎原発腫瘍12例において癌遺伝子であるrasおよび癌抑制遺伝子であるp53の突然変異の検索を行った。rasについてはH-ras,K-ras,n-rasいずれにおいてもcodon12,13,61において変異を認めなかった。p53は1例においてcodon246で変異を認め(CGC to CTC;Arg to Leu)、蛋白レベルでその異常蛋白の発現が高いことを確認した。この変異パターンはヒドロキシラジカルに特徴的な修飾塩基である8-hydroxyguanineにより引き起こされたものとして矛盾しない。本研究では、この腎発癌モデルにおいてはras,p53はフリーラジカルによる変異の主要な標的となっていないことが明らかとなった。これはヒト腎癌の報告とも一致し、臓器特異的な事実である可能性もあり、現在新たな標的遺伝子を検索している。
|