研究概要 |
胃では、ドーパミンは運動、酸分泌の抑制および血流の増加を介して潰瘍発生に抑制的に作用することが報告され、また、ドーパミン受容体が存在するにも拘らず、脳に比し極めて微量であり、その存在様式は神経にあるのか、分泌細胞にあるのか全く明らかにされていない。本研究では、生理学的手法を用いて、胃からのドーパミン遊離様式を指標にして胃ドーパミン機能を、さらに、免疫組織化学的手法を用いて、胃ドーパミンの局存部位を明らかにすることが目的である。第1にドーパミン遊離実験では、guinea-pigから摘出した胃体部の輪状筋標本をin vitroの遊離実験操置に供し、電気刺激(1msec,3-20Hz)に応じたドーパミン遊離量の増加を認めた。さらに、この遊離量の増加はCa Freeの潅流液では阻止され、テトロドトキシン感受性であった。第2にドーパミン抗体を用いた免疫組織化学的手法により、高血圧自然発症ラット及びguinea-pigの胃アウエルバッハ神経叢において、ドーパミン免疫陽性神経線維とドーパミン免疫陽性細胞体を認めた。またドーパミン免疫陽性神経線維はコリンアセチルトランスフェラーゼ免疫陽性神経細胞に接し、回りを取り囲んでいた。以上の結果より、胃ドーパミンは神経に存在し、神経伝達物質として作働していることが証明された。ストレス胃潰瘍発生の少ない高血圧自然発症ラットでは、ストレス時に胃ドーパミン量は増加し、胃運動は抑制される。この胃運動の抑制はドーパミンD_2 receptor blocker投与により改善された。このことは、高血圧自然発症ラットではストレス潰瘍形成時には胃ドーパミンが神経伝達物質として重要な役割を担っていることを示す。現在、高血圧自然発症ラットとその対象である正常血圧の京都系ウィスターラットとの胃におけるドーパミン神経の分布の違いを検討中である。
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