クローニングした日本株HCV-Nの5'側3'側の非翻訳領域を含む全長遺伝子約9.4kbをアルブミンエンハンサー(-12〜-8.5kb)、及びプロモーター(-0.3〜0kb)の制御下に組み込んで導入遺伝子を作製した。この導入遺伝子を、近郊系マウスC57BLACK/6Jの受精卵に約1000コピー注入して一晩培養し、2細胞期にはいったもののみを選別してICR系の偽妊娠マウスに卵管移植し、19日後、自然分娩あるいは帝王切開によって産仔を得た。既に89頭のマウスについて解析を行なったが、導入遺伝子の存在は確認されなかった。我々の研究室では、培養細胞系でSRαプロモーター下にHCVの全長遺伝子を導入することでその一過性発現に成功しており、現在は、in vitroで発現の確認されたこの導入遺伝子も合わせて、受精卵へのマイクロインジェクションを施行中である。 一方、我々は、既にHCV構造蛋白領域遺伝子を導入したマウスを3ライン作出したが、肝臓、腎臓など、主な臓器における導入遺伝子発現は認められなかった。そこで、各臓器における導入遺伝子のメチル化をメチル化感受性の制限酵素消化により調べたところ、3ラインのトランスジェニックマウスいずれにおいても導入遺伝子が高頻度にメチル化を受けていることがわかった。HCV遺伝子発現に成功した培養細胞では導入遺伝子のメチル化は見られなかったことから、トランスジェニックマウスでHCV遺伝子が発現しない理由としてメチル化が関与している可能性が示唆された。DNAのメチル化は、遺伝子発現制御機構の一つであり、genomic imprintingや、外来遺伝子の発現抑制にも深く関わっていると考えられ、もともとHCVのシークエンス自体にメチル化のターゲットとなるCpG配列が数多く含まれることから、in vitro、in vivoにおけるHCVの遺伝子発現には、この配列の存在を考慮する必要があると考えられる。現在、脱メチル化剤投与によるこれら3ラインのトランスジェニックマウスでの導入遺伝子発現を試みている。
|