Blastocystis hominisは、1912年にヒトの腸内に生息するイ-ストの一種として報告された嫌気性の真核微生物である。その後の本微生物の分類に関しては、子嚢菌類・原生動物・藻菌類等と提案されたが、最近の分子生物学的手法によるrRNAの解析結果からは同定できず、分類位置不明の微生物として現在に至っている。 本研究では、動物細胞と真菌類とが異なった膜ステロール成分を有していることに着目し、膜ステロール成分から本微生物の分類学的位置を考察した。 真菌類特有のエルゴステロールと結合するポリエン系抗生物質アンフォテリシンB、エルゴステロール合成を阻害するアモロルフィン、コレステロールと結合し難溶性の複合体を形成するジギトニンを用い、本微生物の増殖への影響を調べた。アンフォテリシンB、アモロルフィンは全く影響を及ぼさなかったのに対して、ジギトニンは増殖を完全に抑制した。以上の事から、本微生物がステロール成分としてエルゴステロールをもたず、コレステロールを有していると考えられた。 次に、この結果を検証するために、アンフォテリシンB及びコレステロールと特異的に結合しフィリピン-コレステロール複合体を形成するフィリピンを用い、フリーズ・フラクチャー法による電顕観察を行った。アンフォテリシンB処理した細胞の細胞膜面には全く変化が認められなかったのに対し、フィリピン処理した細胞の細胞膜面にはフィリピン-コレステロール複合体を示す陥没・突起が多数観察された。以上の培養実験ならびにフリーズ・フラクチャー法による電顕観察から、本微生物が膜ステロール成分としてコレステロールを含んでいることが判明し、膜ステロール成分に関しては真菌類よりも動物細胞に近い生物であることが明かとなった。
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